久しぶりにこれだけ分厚い本を読んだ気がする・・・が、人名索引を含めて667ページか。数字にするとそれほどでもないですね。でも、非常に読み応えのある一冊であったのは確かです。それが本を分厚く感じさせたのかもしれないですね。
この本は哲学史書であり、物語である
本書の特徴はなんといっても、哲学の歴史を記した「哲学史書」であると同時に、主人公の女の子・ソフィーと謎の哲学の先生・アルベルトにまつわる「物語」であるという点。
本書がこれら2つの側面を併せ持つことで、「14歳以上の大人」に向けた哲学入門書を書きたいという著者の思いが、うまく現実のものとなっています。
というのも、本書は日本では単行本約200万部、世界で約2300万部を売り上げました。哲学について書かれた書籍としては異例ですね。このことから、「哲学って難しそう・・・」と食わず嫌いしていた、もしくは挑戦したが挫折した人の多くが本書を手に取り、ソフィーとともにアルベルトの哲学講座を受講したと推測できます。哲学入門書としては文字通り“ベスト”セラーでしょう。
不完全だが、きっかけに溢れている
目次を開くと哲学者の名前、あるいは思想や主義の名称がずらりと並んでいます。入門者にとっては圧倒されるラインナップかもしれないが、哲学の専門家からすれば疑問を感じるところでしょう。僕は専門家じゃないので、けっこう圧倒されました(笑)
哲学専門家が疑問を抱く理由は、取り上げた人物が少なく、哲学史書としては不十分だということです。
例えば、ショウペンハウエルに関していっさい触れられていない。ヘーゲル哲学に触れたのならば、同時に彼の思想の解説があった方が歴史の流れが上手く説明できるのでは、と思う人もいるでしょう。
ニュートン、ダーウィン、フロイトを思想家として取り上げるならシュレディンガーについても一言あってもいいじゃないか、と科学好きな人は言いたくなるかもしれません。
しかし、著者がターゲットにした読者層は哲学入門者、つまり、哲学についての知識のない人。その人たちに重要な哲学者を片端から取り上げた教科書を読ませようなんて不可能に近いのです。そもそも読んでいて面白く感じてもらえないでしょう(笑)
その点を加味すると、必要十分な人選だと思いますね。僕は過去に哲学書、哲学史書を何冊か読んでいますが、哲学のメインストリームはしっかりと抑えられているように思います。また、最後の解説でも触れられたハイデガーやウィトゲンシュタインが登場しないこと。これは内容を軽くし、読みやすさ、理解しやすさを優先した結果だと思います。難しいこと言う近現代の哲学者、思想家はことごとく選抜漏れしてますからね。
でも、これはあくまでも「ソフィーの世界」においての必要十分であり、哲学史としては全く不十分です。当然、著者にもそれがわかっていたはず。難しいところ端折り過ぎて中身スカスカ・・・なんていう入門書じゃ魅力がないですよね。なぜ、哲学史書として不完全なものを哲学入門書として世に出したのでしょうか。
その答えは、自分で興味を持ち知識を深め広げていくことが哲学の本当の面白さだから、だと僕は思います。
「ソフィーの世界」を読めば、一人くらい気になる哲学者に出会うはずです。ならば、その哲学者について調べたり、本を読んだりすればいいわけです。そうすれば、自然とその哲学者のフォロワーやライバルについての知識も付いてくるでしょう。そんな感じで、入門者は本書を読み終わった後、気になった時代や思想、哲学者について、本を読んだりネット調べたりして知識をより深く広くしていく。著者はそこまで意図して本書を書いたのではなかいと思うのです。読者自身が本書の足りない部分を補完すべきなのだ、と考えていたのではないかと思うのです。
ショウペンハウエルもハイデガーもウィトゲンシュタインもシュレディンガーも、「ソフィーの世界」に登場しなかった分、自分で見つける楽しみが残っていると考えることもできますよね。
もっと言うと、本書のメインはほぼ「西洋思想史」であり、他の文化圏の思想はおまけ程度です。でも、西洋思想を自分から学ぶうちに、いずれその枠の外にある思想にまで到達することだと思います。
以上の理由から、僕は本書を「きっかけに溢れた一冊」だと感じました。
物語としての書評は、控えておこう
物語としての書評は、控えておきます。というのも、物語の構造自体に大きな仕掛けがあり、物語に下手に深く触れると盛大なネタバレになる可能性があるからです。
その構造の大きな仕掛けそのものが「ソフィーの世界」の面白さであり、同時に、ひとつの哲学的な問になっています。とだけ言っておきます。
まとめ
読後、哲学の知識を広げたい読者はより専門的な書籍に当たるだろうし、物語中に出てきた哲学的な問にハマってしまいどんどん深みに落ちていく人も居るでしょう(笑)
ほんとにいい本でした。暇を見つけて再読したいですね。解説本もあるようなので、読んでみたいなぁ。
とにかく、哲学っておもしろい!そう再認識させてくれた一冊でした。
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